ナンセンスギャグで一世を風靡した、漫画家赤塚不二夫さんの『天才バカボン』は、実はヨガの思想を背景にして語られていると知ると、皆さんは意外に思われるでしょう。
しかし、それをひも解いて見ると、ヨガ思想の根本が説かれていることが判ります。
目次
○ バカボンのパパは仏陀の生まれ変り
『天才バカボン』では、実質的な主人公は、バカボンのパパです。
そのバカボンのパパは生まれるとすぐに、仏陀が誕生した時に始めて語ったのと同じ「天上天下唯我独尊」と言う有名なフレーズを語ったと描かれています。
その意味するところは、三界(過去・現在・未来)の束縛から離れ、私は永遠に存在し続ける真我(アートマン)の存在であることを主張しているのです。
つまり、バカボンのパパは、限りなく「仏陀」を意識して作られた、聖者の意味合いを持つキャラクターなのです。
「バカボン」という名前は、実は仏教で釈迦のことを意味する「婆伽梵」または「薄伽梵」から来ているのです。
インドのサンスクリット語で、全知全能の神を意味する「バガバァーン」と言う言葉は、中国に渡り漢字に翻訳されたものなのです。
そして「バガヴァーン」とは、「バガ」を有した者という意味です。
その「バガ」の意味ですが、それは以下の6つの徳目を有している存在です。
1)アイシュワリヤ
「過去」「現在」「未来」の三界を支配する者
2)ヴィーリヤ(シャクティ)
創造、維持、破壊の絶対的力を持つ者
3)ヤシャ
絶対的な神の名声を持つ者
4)シュリヤハ
三界の全ての富を持つ者
このシュリーはインド人の名前でもよく使われています。
5)ギャーナ
無限の知恵を持つ者
6)ヴァイラギヤ
絶対的な無執着によって全てを放棄している者
○ 『天才バカボン』と『バガヴァット・ギーター』
ヨガの経典でもあり、インド独立の父・カンジーが愛読した聖典に、『バガヴァッド・ギーター』があります。
『バガヴァッド・ギーター』は、「バガバァーン」の「ギーター(歌)」と言う意味です。
そして、バカボンのパパがいつも口にするセリフが、「これでいいのだ」です。
ヨガでは、我々人間は真実の世界をありのまま観ることはせず、幻の世界に生きていると考えていますが、我々が世界すべてを「これでいいのだ」とありのまま受け入れることができたら、真実の世界に到達することができるかもしれません。
人間は、いつも自分の今ある境遇に不満を持ったり、自分のことを棚に上げ他人を批判しがちです。
しかし、それらのすべての事柄を「これでいいのだ」と積極的に受け入れた時、もっと楽に、そしてより自由に、生きることができるのではないでしょうか。
物事には、必ず原因と結果があります。
仏教では、すべての現象は、因縁によって生まれるとしています。
つまり、現在自分が目の前で体験している現象や人間関係は、自分が原因で生まれているのです。
しかし多くの人が、現在体験している嫌なことの原因について、自分を棚に上げて、その原因を自分以外に求めます。
その為、今の自分の現状を理解し受け入れることなく、不平不満を持つことで新たな執着を作り出し、永遠に続くような輪廻転生の苦しみに迷い込んでしまいます。
赤塚不二夫さんは、その輪廻転生から脱出する方法を、あるキャラクターを登場させることで、皆さんに説いています。
それが、「レレレのおじさん」です。
実は彼は、お釈迦様のお弟子の一人で「掃除」で悟りをひらいたチューラパンタカ(周利槃特=しゅりはんどく) をモデルにしていると言われています。
チューラパンタカは、悟りを得ようと仏陀の弟子になりますが、仏教を勉強するのが苦手で僧院でいわゆる落ちこぼれになり、自分の頭の悪さを呪い一人悩みました。
仏陀はその様子を見て、彼にほうきを渡し、仏教を勉強する代わりに毎日僧院をほうきで綺麗にすることに専念しなさいと説きました。
それ以来彼は仏陀の言いつけを忠実に守り掃除に専念し、最後には自分自身の因縁も掃き清め悟りに至ったと言われています。
つまり、人間は何も特別なことをしなくても、今自分自身に課せられている様々な事柄を不平不満を言わず、一生懸命純粋に専念してすることで因縁が解消されることを示しているのです。
『バガヴァッド・ギーター』では、自分の因縁を解消させる方法として、次のように説明しています。
「行為そのものに専念した者は、行為の結果に執着せず、究極の静寂に達する。行為そのものに専念せず、欲望に囚われ結果に執着すると、人は束縛に支配され静寂を失う」
(第5章 12節)
『バガヴァッド・ギーター』を知らなくとも、『天才バカボン』を読んでいると、ヨガ哲学の本質が自然と理解されていることが素晴らしいところです。
赤塚不二夫さんは、ナンセンスギャグの漫画の形式の中で、極めて自然に、そしてやさしく人生の極意を説いてくれています。
その意味で『天才バカボン』は現代版『バガヴァッド・ギーター』であり、バカボンのパパは、現代版の仏陀ではないでしょうか。
そして、我々を悩み多い「マーヤ(幻)」から解放させてくれるキーワードば、「これでいいのだ」ということになるのでしょう。
赤塚不二夫さんの葬儀に、タモリさんが白紙を前に読んだ素晴らしい弔辞の中で、故人を次のように称えています。
「あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに、前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち『これでいいのだ』と」
タモリさんの「弔事」
人生そのものをギャグとして捉え、自らの死をもギャグとしてしまった赤塚不二夫さん。
この世が「マーヤ(幻)」であるとしたならば、彼の生き方 こそ「バガ」を有した「バガヴァーン」だったのではないでしょうか。
○ 天国で神となった赤塚不二夫さん
昨年(2016年)、赤塚不二夫さん生誕80周年を記念して、一本のドキュメンタリー映画が制作されました。
彼の人生を、アニメーションを軸に、関係者 インタビュー、秘蔵写真、プライベート映像、幻のテレビ番組などの膨大な素材で再構築したものです。
その題名は、「マンガをはみだした男」。
その中で、赤塚不二夫さんが、戦時中の幼少時代に満州で、家族を含め多くの身近な人が死んでいく体験をして、それを受け入れる為に、中国語で「没法子(メイファーズ)」という言葉を座右の銘としていたことが紹介されていました。
意味は「しかたない」とか、「しょうがない」だそうです。
つまり、『天才バカボン』の「これでいいのだ」は、そうした戦争の悲惨な体験を背景に、生み出された珠玉の言葉なのです。
その為、彼はこの悲惨な体験を消化させようとして、命を賭けて人を笑わせようと、凄まじいエネルギーで創作活動に打ち込み、様々な傑作を世の中送り出して、日本中を笑わせました。
当時彼は本気で、「笑ってくれれば死んでもいい!!」と言っていたことが、関係者の証言でも紹介されています。
私も赤塚不二夫さんに影響を受けた世代で、子供の頃に漫画「おそ松くん」に登場するキャラクター「イヤミ」がするポーズを真似して、手足を曲げながら「シェー」と叫んで、周囲の大人を笑わせていました。
そして、このドキュメンタリー映画の最後では、赤塚マンガで登場するキャラクターが総出演して、その中央で赤塚不二夫さんがなんと、「バガバァーン」となっているのです。
しかも、タモリさんが自ら作詞して歌っており、題名が「ラーガ・バガヴァット」で、赤塚不二夫さんを「クリシュナ」として讃えて、私は驚くと共に感動しました。
タモリさんの歌う「ラーガ・バガヴァッド」
「ラーガ」とは、サンスクリット語で、意味は色や感情などを表して、「クリシュナ」とは、『バガヴァッド・ギーター』で登場する神の名前です。
赤塚不二夫さんとタモリさんは、生涯固い絆で結ばれた同士ですが、その絆をヨガ哲学の本質に観ることができるのです。
赤塚不二夫生誕80周年企画 マンガをはみだした男 公式ホームページ
ヨルタモリとカルマヨガ
ジャズな人はヨガな人である。ヨルタモリとカルマヨガについての解説動画です。
詳しい解説は、こちらのブログ記事で読む事ができます。
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ヨルタモリ:ブログ記事
IYC表参道開催 ヨガ哲学とマインドフルネス
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IYCは私にとっても、ケンさんの元で、長年アシュタンガヨガを練習してきた拠点ですので、特別なワークショップです。
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●やさしいヨガ哲学とマインドフルネス瞑想
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IYC表参道WS
ユキオ先生による、やさしく学べるバガヴァッド・ギーターの読み方紹介
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