○ 本当に仕える存在を知ると遊びとなる
サンスクリット語で「リラ」とは遊びを意味し、この世は神の遊び、または戯れであると説きます。
普段の生活で仕事に追われ、あくせくしながら毎日を送っていると、とてもこの世を遊びだと考える事は難しいでしょう。
しかし、ちょっとした意識の変化で、仕事に対する価値観が変わるかもしれません。
○ 仕事にどのように取り組むのか
西洋人は、仕事の考え方は辛く大変なものと考え、その反対としてバカンスなど遊びをすると捉えています。
つまり、仕事と遊びは、正反対のものであり、「つまらないもの」と「楽しいこと」として対極に考えます。
もしそうだったら、我々の多くが仕事に大半の時間を費やしているので、人生そのものが辛いもとなってしまいます。
ヨガではこの世を、「リラ(遊び)」としているのに、実際は真逆の世界となってしまいます。
事実、フランス語の「仕事」という意味に当たる「travail」は、中世の古フランス語から来ており、意味は「 苦しみ・苦難 」だそうです。
そうすると数日旅行を楽しんでも、多くの人が大半の時間を仕事で費やしているので、この考えでは人生が苦しみの連続となってしまいます。
この考え方の問題は、そもそも「仕事」と「遊び」を対極として、考えているところです。
ヨガでは、この世を相対的な価値観で作られた、幻想の世界と定義しています。
そして、喜びは束の間で、苦しみは長いものなのです。その考えに支配されると、一般の会社員にとって、日曜日の夕方から月曜日にかけて、憂鬱になってしまうのです。
一方で、仕事を辞めたり、定年退職して毎日が日曜日になると、今度は生きる張り合いが無くなってしまうことになります。
だから、「仕事」と「遊び」を、相対的に対立するものと考えると、我々は幻想の世界に深く迷い込んでしまい、人生そのものを見失ってしまいます。
しかし、ここで日本語の「仕事」が意味するところ考えると、その幻想から抜け出るヒントが見つかるのです。
○「仕事」の本当の意味
仕事の「仕」は、にんべんに士と書きます。中国の「史記」のことわざで、「士は己を知る者の為に死す」というものがあります。
意味は、自分を本当に知っている者のためには、命さえ惜しまずに尽くすという意味です。
つまり「仕事」とは、西洋のように苦しみではなく、「尊い存在」に尽くし仕える事だったのです。
では、本当に「尊い存在」とは、どんな存在でしょうか。会社の社長でしょうか、国の元首でしょうか。
ヨガでは、本当に「尊い存在」は、自分の内側に存在すると説きます。
アートマンと言われる魂の存在が、最も「尊い存在」であり、その存在に対して献身的な努力をすることを、バクティヨガと呼ばれています。
バクティヨガとは、何事も会社やお金や名誉といった外側の存在に仕えるのではなく、自分の内なる存在に対して仕えることを説いています。
そのような意識になると仕事は、「私」というエゴの欲望を満たすものではなく、「アートマン」に捧げるものとなります。
「私」には、様々な執着があり、そこから生じる怒りや恐怖や不安がついてまわります。
しかし、「アートマン」には、外界に対して一切執着を持っていないので、自由自在な存在なのです。
○「遊戯」は仏教用語
良く遊び場を遊戯場といいますが、仏教では「遊戯」を、「ゆげ」(ときに「ゆけ」)もしくは「ゆうげ」と読みます。
それは、いっさいの精神的束縛から脱した「自在の境地」に達していること、あるいは、その境地に至った人、そうした修行者が自由自在にふるまうこと意味しています。
ヨガもエゴが生み出した精神的束縛からの解放を目指しているので、「リラ」と「遊戯」は全く同意語と言っていいでしょう。
そして、両者が共通する条件として、一切執着をしない自分の本質と結びついていることです。
結びついているとは、すべての行為行動を、エゴの為ではなく、自分の本質に仕えることなのです。
ヨガでは、こうした献身的な行動を、「バクティ」と言います。
エゴという存在は、いつも不安定で、不足感があるので、外界のものを求めようとするので、それらに対してどうしても執着してしまいます。
しかし、自分の本質は完全な存在なので、何一つ不足感を生み出すものはありません。
その為、行為行動を起こすことに対して、純粋になれるのです。
純粋な行為行動は、なにも囚われるものがないので、自然と自由自在な行動となります。
自由自在は、ヨガの経典「ヨガ・スートラ」の目指す境地、「カイヴァリア(独尊)」となります。
このように、「仕事とは何か」を考察することで、ヨガの教えに結びつこところが、ヨガの面白さでもあります。
ここで、日本語とサンスクリットの対比を整理すると、以下のようになります。
・遊戯 → リラ
・仕事 → バクティ(献身)
・自在自在 → カイヴァリア(独尊)
こうして観ると、日本語はとても深い意味をもった言葉であることが判ります。
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